大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和63年(行ス)11号 決定 1988年9月16日

抗告人

大阪市長西尾正也

右代理人弁護士

千保一廣

右同

江里口龍輔

相手方

蔭山弘子

右代理人弁護士

辛島宏

右同

浦功

右同

大石一二

右同

梶谷哲夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  当裁判所も抗告人の本件抗告は理由がなく、原決定を正当と認めるが、その理由は次に付加する外、原決定理由二に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

抗告人は、本件執行停止申立には、回復の困難な損害を避けるための緊急の必要性が認められないばかりか、本件集会が区民センターにおいて開催されれば、公共の福祉に反する重大な事態が惹起されることが明白である旨主張する。

しかしながら、本件処分によって、申立人が回復困難な損害を受け、本件申立には右損害を避けるための緊急の必要性があることは、右引用にかかる原決定理由二1ないし3(同一枚目裏一三行目から五枚目裏三行目まで)説示のとおりであり、また、支援する会は婦人団体役員、牧師等、特定の政治的集団に属しない多種多様な職業、経歴の人達がともに世話人として運営している団体で、本件集会の趣旨、目的自体を反社会的活動とみることはできないこと、憲法上保障された集会、言論、表現等の自由を実力によって妨害、阻止しようとする一部団体等の違法な妨害行為に対しては警察当局において適切な警備が当然なさるべきことなどに鑑みれば、本件執行停止により、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるものともなし得ず、右主張は失当である。

2  従って、原決定は、相当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官上田次郎 裁判官川鍋正隆 裁判官若林諒)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取り消す

相手方の申立てを却下する

抗告費用及び申立費用は相手方の負担とする

との決定を求める。

抗告の理由

一 抗告人は抗告人の主張を認めなかった原決定全部についてその不当であることを主張するものである。原決定は、相手方が昭和六三年九月一七日に大阪市立港区民センター(以下区民センターという。)を「集会」(以下本件集会という。)目的で使用することに対し、抗告人の使用許可取消しは、本件集会の開催自体を不可能ないし著しく困難にするものであり、本件執行停止申立は回復の困難な損害を避けるための緊急の必要に基づくものであると認められるとしているが、しかしながら、本件集会は区民センターにおいて本年九月一七日に開催されなければ集会の目的を達成せられないという性格、内容のものでないことについては、原審において抗告人が述べたとおりであり、まして、本件集会主催者側である申立外永井満氏が相手方提出疎甲第三三号証四頁末尾において自ら認めているように、過去の同種の集会では右翼団体の妨害により混乱が生じているのであり、今回の集会についても右翼の妨害があることが予想されているにも拘わらず、区民センターのような住宅、図書館が併設されている複合施設で、住民の一般的な生活が営まれている地域に存する施設において、あえて危険な本件集会を行わねばならない必要性は全くないのである。

二 また、原決定は、本件集会が公共の福祉に重大な影響を及ぼすことの疎明が不十分であるとしているが、本件集会と同種の過去に行われた申立外知花昌一氏の裁判支援を目的とする集会において、主催者と右翼団体等の本件集会に反対する団体との衝突により施設の破損や逮捕者が出る等の混乱が生じていることは、原審において抗告人が疎明した(疎乙第一二号証乃至第一六号証)とおりであり、また前述したように本件集会主催者側も過去の同種の集会で混乱が生じたこと、本件集会でも右翼の妨害が予想されることを認めているのである。したがって、本件集会においても、主催者側の中心を占める中核派の暴力闘争的性格や、本件集会に反対する右翼団体からの種々の事前の言動からして、本件集会が混乱し、施設の損傷のみならず、近隣住民や通行人等への被害が生じ、附近の交通に著しい障害が惹起されるなどのさし迫った具体的危険性が在り、これを漫然と放置すれば公共の福祉に反する極めて危険な事態となることは明白といわざるをえないのである。現に、本件集会に反対する右翼団体が過激な集会阻止活動を行う旨の動向はますます明らかとなっている(疎乙第二八号証)。

三 原決定は、大阪市区役所附設会館規則第四条の使用許可取消事由に本件予想される混乱が該るか甚だ疑問であると説示するが、当該本件集会において惹起されることが明白である混乱が同条の使用許可取消事由に該ることは明白であり、原決定は同規則の解釈を著しく誤るものと言わざるをえない。

四 原決定は、抗告人が意見書六「取消の理由」(一)2で主張し疎明されている本件集会当日本件集会と競合して開かれる区民等の集会の事実(疎乙第五号証)については全く考慮していない点、及び本件同種集会において、開催時間の二時間前より集会を支援する中核派と反対団体とが衝突混乱が生じている点を見過ごして、階上の図書館の利用時間が本件集会開催時には終了しているので利用者が混乱することはないと結論している点において不当である。

また、本件執行停止が申し立てられ、集会の日も迫ってきたので、本件集会当日、区民センターにおいて集会を予定している三団体一〇二名の人たちに対し、本件集会が前述のような混乱を惹起せしめる蓋然性が非常に高く、かつ、事が起こってからでは取り返しが付かないため、当日の危険性を説明し、執行停止が認められた場合当日の集会を中止してもらえるかどうか打診せざるをえなくなったが、この人たちからはなぜ我々が集会を取り辞めなければならないのか、自分らの権利はどうなるのか等の抗議が抗告人に対して寄せられている(疎乙第二九号証)。本件集会開催を認めた場合、相手方と同等に尊重されなければならない他の利用者の集会、結社の自由が、公安を害し、重大な危険を作り出す相手方の集会開催のために逆に制限されるという結果を必然的にもたらすことは明らかであるため、他の使用者に迷惑を及ぼし、管理上支障があるものとして抗告人は本件使用許可を取り消したものであるが、当該処分は大阪市区役所附設会館条例、同規則に則った適正な処分であり、「本案において理由がない」ことは明らかである。

五 さらに、原決定は反対団体の違法行為については警察当局の適切な警備が当然見込まれるというが、港警察署の見解自体、中核派と右翼の対立抗争は必至の情勢にあり地元住民や通行人に対する影響は大きいとしている(疎乙第二三号証)ことから、かかる中核派と右翼が対じした場合に惹起される実態に目をつぶるものである。

なお、原決定は過去の集会において混乱が生じたことについて「集会の主催者の責に帰すべき事由によるものとは認めがたい」と説示するが、抗告人が意見書六取消しの理由(二)において述べるとおり中核派を中心とする主催者側の闘争的体質が混乱を起こす引き金となった事例があること(疎乙第一三号証の二)、その他本件集会の中心となっている中核派の闘争的性格を見過ごしたものと言わざるをえない。

六 以上述べてきたように、本件執行停止申立には、何ら回復の困難な損害を避けるための緊急の必要性が認められないばかりか、本件集会が区民センターにおいて開催されれば、公共の福祉に反する重大な事態が惹起されることが明白であり、また、抗告人が原審においてのべたとおり、本件取消処分には何ら違法な点はなく、本案において理由がないことは明らかであるので、抗告人は本件即時抗告の申立に及んだものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例